ご存じでしたか? パリに星が一つ増えました。

そう、それは「海の星」。

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「星の広場」エトワール広場から数歩の「海の星」、「エトワール・スュール・メール」。どこの海だろう? 地中海?大西洋?日本海?

青い空間に腰を下ろしたとき、私が想像した海は、もっと深かった。深海のように静かな海。子どもたちの、夏休みの海ではない。大人の海だ。レストランのテーマは明快だ。テーブルは青、メニューも青、プレゼンテーションディッシュにも青い模様が。

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最近フランスも魚ブームで、まだ少数だが、肉料理を出さないレストランがでてきた。「エトワール・スュール・メール」の今日のランチメニューにも、肉料理が一品しかなかった。

しかし最近のビストロノミーに反してここは静か。居心地のよいスペースだ。内装はモダンだが、間違いなく高級レストラン。三つ星常連シェフ、ギ・サヴォワと、彼の一番弟子クレマン・ルロワのパートナーシップだけのことはある。

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ここの厨房からは、トレンディなビストロノミーの料理は出てこない。食器はすべてリモージ焼の老舗ベルナルドーだ。粗っぽい焼き物や木製の食器が流行る今日、ベルナルドーの白い磁器は一瞬、革命的に感じてしまう。

妙にほっとするな、ここ。

料理は「試作」ではない。「今朝ちょっとやってみました」という雰囲気ではない。素材は完璧にマスターされている。すべてが精密に計算され、慎重にお皿にのせられた感じを受ける。

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この日の、シェフお任せのランチはアミューズ、オードブル二品、メイン、デザートの五品が供された。そのうち、特に印象に残ったのは次の二品。

まずは鯖。お皿を二枚重ねた、ちょっと凝った盛り付けだ。上の皿は一見、〆め鯖。食べてみると、〆め方が西洋的。日本の、塩と酢で身をかっちり締めた魚ではない。仄かに甘く、塩味と酸味が薄く、身が柔らかい。

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大西洋の鯖は日本の、太平洋の鯖と種類が違う。こちらは「スリム」、つまり、脂がのっていても、痩せ気味だ。だから、日本のようにしっかり締めると、かさつきがち。しっとりいかない。

なかなかおいしい、「西洋〆め鯖」と言っておこう。

上の皿を取ると、下には炙った鯖がある。柔らかく、限りになく優しいピンク色のジュレは赤カブ。そして隣に、薄く切ったナスで構成されたカネロニがある。

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二品一組で出てくる鯖はおいしかったが、海を渡ってでも再び食べたい料理は、「ポ・ト・フ」。

「ポ・ト・フ」は直訳すると「火に乗せた鍋」だが、お馴染みの肉と野菜を長時間煮込んだフランスの家庭料理。

しかし「エトワール・スュール・メール」の「ポ・ト・フ」は牡蠣なのだ。

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スープ皿の中に一つの大きな立派な牡蠣、ペロリンと登場した。周りに、メートルドテルが鰻とク・ド・ブフ(牛の尻尾)のブイヨンを注いでくれる。

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添えてある野菜はそれぞれ火入れを加減し、歯ごたえのあるものもあれば、とろけるのもある。

ウマイ~。

ほっとする野菜たち。ぎゅっと攻撃的だが滑らかさも伴う牡蠣。

そして、隣に添えられてくるタルティーヌが絶品なのだ。

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「タルティーヌ」はフランス語でトーストしたパンを意味する。朝食のタルティーヌ、と言えば、フランスパンを縦に切り、トーストしてバターを塗ったもの。

ここのタルティーヌは厚みのしっかりある田舎パン一枚。ほどよくグリルしてある。上にはたっぷりの牡蠣のミンチ。そして「オス・ア・モワル」、「脊髄入り骨」の上に置かれてくる。

小さなスプーンで「脊髄」を少々すくいだし、パンの上の牡蠣に乗せる。

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噛み切るのにちょっと苦労をする硬いフランスの田舎パンは生イースト菌の酸味と、厚いミミがちょっと焦げるくらいに焼いた香ばしさが特徴だ。

フランス語で「canaille」「カナイユ」という言葉がある。「悪ガキ」と訳したらいいのだろうか。昔のパリっ子。石ころを窓に投げたり、おばあちゃんの買い物かごからリンゴを一個盗んで走り去る悪ガキ。それが「カナイユ」だ。

最近は、「カナイユな料理」というようになったが、それは昔のビストロ風、庶民的な雰囲気を持った料理を指す。

日本だったら鰻のかば焼きか、お好み焼きが「カナイユ」かな。

「骨髄」は脂。味のある脂だ。食感は白子とジュレの間くらい。昔、肉は貴族が食べた。庶民は、内臓や脊髄で我慢したのだった。フランス庶民は、固くなった田舎パンを暖炉であぶり、熱く香ばしくなったパンに脊髄を塗って、食事にした。

脊髄の味のある脂が牡蠣の磯の香りをまろやかにしてくれる。そして、強調し濃度を高めながらも、食べやすくしてくれる。

不思議な味の相性。

解明できない味の相性。

パリ「海の星」は庶民の食べものに大西洋の牡蠣を添え、パリジアンな超高級トーストに仕立てた。これは、実に美味しいフランス料理だ。

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続きは柑橘バターで香りづけたラングスティーヌ。

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ルジェは鱗焼き。なんだか中華っぽい香りが邪魔くさく感じた。現状はイマイチだが、進化していくだろう。

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前デセールはさっぱりとお口直し。

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クランチかと思ったら全然違う。濃厚な苦みをしっかり活かした、大人の一口チョコだった。

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熱いソースが注がれる前に写真を撮らなかったのは残念だ。真珠のような「玉」。苺のソースをかけるとジュワ~と溶ける。中もイチゴ。

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夏にぴったり、爽快な桃のデクリネゾン。

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デセールその②はチョコレート。

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PS 「エトワール・スュール・メール」を「海の星」と訳したが、厳密には「海の上の星」という意味。

Étoile sur Mer
18 rue Troyon
75017 Paris
電話 +33 (0)1 53 81 72 50
定休日日・月