「ビストロノミー」は、もはや無意味なトレンド用語に過ぎないと、仏ガストロノミーネットマガジンが書いたばかりだが、木製のテーブルや座り心地の悪いカウンターで、ちょっとおしゃれに作った料理を細々と提供し、ワインを重視するレストランだと、私はボンヤリと理解している。

いずれにしても私はあまり好きではない。

何事にも「中間」が嫌いで、どうせ行くなら自分で作れない高級料理か、同じく自分で作れない大衆料理か。だから「ネオ・ビストロ」は興味がない。

もちろん中には「ピルエット」「ア・ノステ」「ピエール・サン・ボワイエ」のように、結構好きな店もあるのだが、おいしいだけに混んでいる。また、基本的にワイン重視の飲み屋なので、客がうるさい。私は、もうトシだし、おまけに下戸。ぎゅうぎゅう詰めの煩い飲み屋はかなり昔に卒業ずみ。

しかし今晩はビストロノミーの軽く爽やかでカジュアルで、きちっと料理されたものが食べたかった。そこで、すでに夕方の7時を回っているのに、フェイスブック友「クラウンバー」のシェフ渥美創太さんにダメもとでメッセージを送ったら、なんと9時半なら2名OKと。

大の外食嫌いの夫はテレビの前でだら~と残り物をつまめるかと期待していたようだが、そんなことはもちろん無視。「夕飯は外!」と叫んで、仕事着のヨレヨレトレパンをまだましなユニクロパンツに履き替え、いそいそと出かけた。

クラウンバーはマレー地区の端にある冬サーカス(シルク・ディヴェール)の隣だ。初夏の晩、歩いて行くにはちょうど良い距離。

渥美創太氏は数年前、彼がヴィヴァン・ターブルのシェフだったときに、お会いしたことがある。一度しか行けなかったが、ヴィヴァン・ターブルの料理はかなり気に入った。

クラウンバーはオープン当時、早速日本人料理人の溜まり場になっていて、そして量が少ないと聞いていた。人見知り且つ大食いの私としては避けたい場所だった。

しかし去年初めて行ってみたら、日本人は少なく、ポーションは結構しっかりしていた。

シェフに聞いたら、「最初は量が少ないと叩かれたので、増やしました」と。

なるほど。愚痴はなんでも言っておくものだな。

メニューは4部に分かれている。左ページの上半分は「酒のつまみ」。これは私が勝手に形容しただけで、お店の人に聞いたわけではない。同ページ下半分はアントレ。
右ページ上半分はメイン。そしてその下がデザート。

「つまみ」には、もはや定番のツブガイのフライがある。フランスの貝ビュロにパン粉をまぶして揚げたもの。前回食べたが、かなりおいしかった。

今晩注文した「つまみ」は「和牛ソシソン」と「ノワール・ド・ビゴールのヴァントレーシュ」。「和牛ソシソン」は好奇心に駆られて。「ヴァントレーシュ」は豚の三枚肉の煮込みと早とちりしたから。

*「ノワール・ド・ビゴール」(直訳:ビゴールの黒)はフランス南西ピレネー山脈の極一部で飼育されるフランスの豚の種類。ヴァントレーシュは語源オキシタニア語の「ベントレスカ」(=三枚肉)をフランス語化した言葉。鮪の場合はトロを指す。

どちらも、シャキュテリを切っただけだが、結構なヴォリュームだ。どちらもそれなりにおいしいが、オードブルとしていただくにはちょっと単純過ぎる。ワインを飲みながらつまむにはちょうど良いだろう。しかしそうするなら、アントレはパスして、直接メインに行った方がいいかもしれない。

我々は単純だから、4等分に分かれたメニューの各部から2品ずつ選んだ。「つまみ」2品、アントレ2品、メイン2品、デザート2品。

そしてシェフがサプライズでアントレを追加してくれた。

素晴らしいカツオの大きな切り身がさらっと透明なブイヨンに浮かんでいる。上には濃厚で、同時に爽やかなサバヨン。

う~ん、このブイヨンはなんだろう?

いくら考えても分からない。

あとでシェフに聞いた。

グリルしたナスのブイヨンはニワトコの花で香りをつけた。
サバヨンは燻製の鰻の骨とシェリーヴィネガーのレデュクション。
どうりで、分からないわけだ。。。

もうひとつの魚料理も美味だった。鯛とフェンネルに、二つに切ったサクランボが数粒。華やかで非常に爽やかなアントレは、味も美しい。真紅のサクランボはフランス産の大きく甘みとボディのしっかりした品種。

ルビーとダイヤの宝石みたいな一品だった。今年初のサクランボは嬉しかった。
夫は自分が注文したフォアグラと鰻の燻製のアントレの方が好みだった様子。

メインは、私が鳩、夫は鴨のブリオッシュ。こちらも具合良く、私は鳩の方が好みで彼は鴨のブリオッシュを喜んでいた。

デザートはメニューに書いていないクイニャマンがあった。
なんと、私がお菓子の中でも特に好物なブルターニュの代物だ。ふんだんに使ったバターとカラメリゼした砂糖がたまらない。

夫のレモンタルトも上出来だった。

ダイニングから見える小さな厨房は、ウチのキッチンの半分もないのでは?
狭い場所で面倒な仕込みが重なる凝った料理をよく作っていると感心するばかり。。。

Saucisson de bœuf wagyu

和牛ソシソン

 

Ventrèche de porc noir de Bigorre

ビゴール黒豚の三枚肉

 

Bonite-aubergine-coriandre

カツオ・ナス・パクチョイ

 

Daurade-cerise-fenouil

鯛・サクランボ・フェンネル

 

Foie gras-anguille fumée-radis-olive noire

フォア・グラ・燻製鰻・ラディッシュ・黒オリーブ

 

Pigeon-rhubarbe-betterave

鳩・リュバーブ・ベトラーヴ

 

Brioche de canard-purée de dattes

鴨のブリオッシュ・デーツのピュレ

 

Kouign amann-vanille-pomme

クイニャマン・ヴァニラアイス・リンゴ

 

Tarte citron-sésame-miel

レモンタルト・ゴマ・ハチミツ

 

la carte

5月27日、夜のメニュー

飲み物はフルーティな赤ワイン一杯と炭酸フィルター水。

ちなみにここのワインはヴァン・ナチュール。

上記の料理と飲み物、合計:122ユーロ

サーカスがテーマのクラウンバー。壁のタイルなど内装の一部は歴史的建造物として保護されている。

サーカスがテーマのクラウンバー。壁のタイルなど内装の一部は歴史的建造物として保護されている。

Clown Bar
114 rue Amelot
75011 Paris
電話 +33 1 43 55 87 35