パリ13区のラ・サンテ通り15番地に「オーベルジュ・デュ・キャンズ」というレストランがある。

シェフは日本人の守江慶智さん。就任して一年もたたないが、がんばっている。

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ダイニングはゆったり。

シェフが「一人でやってる」と聞いていたので小さいところを想像していたら、かなりゆとりのあるダイニングだ。

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クラシックとモダンの奇妙なミックス。

調理場を覗くと確かにシェフが一人だった。コミもいなければ、もちろんパティシエもいない。

サービスも一人。「サービスは19歳の子が一人で」と聞いていた。私が行った日は「19歳」にしては妙に老けて見えるお兄さんが料理人のベストを着てサービスをしていた。10人の団体テーブルもあったりで、かなり焦っていたけれど、それでもとても感じの良い、気が付く青年だった。

あとで聞いたら、「青年」ではなく、オーナーの二コラ・カストレ氏だった。道理で。

その日、「19歳」は風邪で休んでいたらしい。

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なぜかカボチャ。

「ラ・サンテ」というと、アルセーヌ・ルパンが世話になった刑務所だ。ナイフに秘密のメッセージを入れたり、脱出したり。

懐かしいな。まだあるのかな?と思ったら、あった。

だからかな。ラ・サンテ通り、閑散としている。

ちなみにフランス語で「ラ・サンテ」は「健康」という意味です。「サ・ヴァ?ラ・サンテ?」と、親しい人に聞く。

・・・話題を戻して・・・料理は?

守江シェフ、噂は聞いていた。以前「プティ・ヴェルド」にいたときは、フランスのグルメ友達が褒めていた。「オーベルジュ・デュ・キャンズ」に移ってから、不思議と同業者(料理人)がべた褒め。

私は、料理人は意外と味覚がないと信じているので、怪しいとは思いつつ、ラ・サンテ通りにやってきたのだ。

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カボチャのヴルテ。上は干し草とコーヒーの「殻」のエミュルション、ポルチーニブリオッシュのプードル。下は黄金のフォアグラ。

寒い日に心地よく温まるカボチャのスープ。スプーンを入れると何かにあたる。なんだろう?切ってみると、フォアグラだった。

フォアグラはポワレ。火入れは抜群。表面がカリッと、中はしっとり。旨い!

コーンスープやカボチャのスープはフランスよりもアメリカ系のものと私は思う。甘いスープはフランス伝統料理では珍しいが、アメリカ人は好きで、日本人も大好き。

ただ、日本の甘いスープは脂肪でなく甘みでこってりしている。そこが私はあまり好きじゃないのだが、このスープは、フォアグラの脂と香ばしさのおかげで、甘味と塩味のバランスが取れている。

たっぷり注がれたスープはお腹がいっぱいになる量だ。

ああ、そうか。最近、スープと言っても薄っぺらいブイヨンか、小型湯呑の底に潜んだ液体しか出てこないのだ。

スプーンもちょろい小匙ばかりだ。一人前のしゃぶしゃぶのようにひもじい。

忘れていた・・・大きいスプーンを濃厚な液体に鎮める感触。量感。スープはこう来なくちゃ!

温かい国の香料がさらっとスパイシーで甘みを引き立てる。

カボチャをテーブルに堂々と置くだけのことはあるのだな。

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スマックとケシの実をまぶしたサン・ジャン・ド・リュズの鯵。フェンネルと赤玉ネギ。マシュアの葉と花。ザクロ。

次は鯵とフェンネルと赤ネギの料理。鯵は炙ってあるのかな。香りが良い。

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タジェットの花の中にシトロン・キャヴィアが。

広いお皿に、同じ素材でいろんな味を発見する。良く言えば冒険ができて面白く、悪く言えば散漫、と。

こっちはさっぱりしているかと思うと、あっちに行くとクレームがあったり。時には淡い甘みのザクロとか。尖った酸味のシトロンキャヴィアも。

オレンジ色の花がえらく酸っぱいと思ったら、シトロンキャビアの粒を詰めてあった。一人でやってるんだから、やめときゃいいのに。。。手をかけるのがお好きのようで。

フェンネルはシャキシャキっとリフレッシュ。赤玉ねぎはごく微かな辛味。どちらもみずみずしい。魚が持つ自然な生臭さを美味しさに変えてくれる。

ふと、フェンネルや玉ねぎやシトロンキャビアを詰めた花を追っ払って、鯵だけ食べてみた。魚の味に驚いた。

味が持つ「雰囲気」というのだろうか、それは確実に日本のものだった。

しかし、全体の構成はフランス。

もうちょっとまとまってもいいとは思いつつ、この鯵のおいしさには感動した。

四国出身のシェフと聞いている。なるほど。さすが。魚を知り尽くしているのか。

鯵特有の魚臭さと身の柔らかさを旨みに変えているのか。

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サルシフィ、イカと栗。山の松のエミュルション。ゲンチアナとカカオ。

イカよりも、この一品で驚かされたのは栗だった。

生の栗を薄くスライスしただけのようだが、こんなにおいしい栗ってある?

微妙に甘く、そっと粉っぽく。でも違う。このおいしさの秘訣は鮮度か?秋の素材「栗」が放つフレッシュネス。

そんなものってあったっけ?

「フレッシュ」と言えば、リンゴ、小松菜、柚子、サラダ、ミント。

しかし、栗で「フレッシュ」という発想は湧かないのではないか?

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コレーズ産リ・ド・ヴォー・ド・レ、ニンジンの花と黒カルダモンのジュ。

リ・ド・ヴォーが出てきたら、今まで騒がしかったお皿が急に大人しくなった。

はてな?このシェフ、草、花、野菜・・・土のもので遊ぶのがお好き?

かなり面白い植物の香りと食感の組み合わせから、急にシビレになると、静かになっちゃった。

付け合わせのニンジンは美味。そのピュレもおいしい。強いて言えば、ピュレが最初のカボチャのスープに似すぎているかもしれない。

しかし。やはり問題は主人公のリ・ド・ヴォーだな。素材そのものは申し分ないし、火入れは完璧だ。表面は香ばしく、中はじっとり。

では何が悪い?と聞かれると困るのだが・・・。迫力に欠ける?

リ・ド・ヴォーは、肉の豆腐版みたいなもので、恐ろしく淡白だ。

だから、ちょこっと少量では食べがいがないと思う。

さもなければ、ギトギトの肉汁を添えてヴォリューム感を出すか。

そのヴォリューム感をニンジンとそのピュレで出そうとしているが、ちょっと無理があるような気がする。

非常に出来のいいリ・ド・ヴォーだが、まださ迷っている感じがする・・・。

リ・ド・ヴォーのアイデンティティというと笑われそうだが。でも、そういうことじゃないかな。

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リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル。ホウレンソウ。

出ました!問題のリエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル。シェフの守江さんは自慢作でもあり、気になる作品でもあるらしい。

これをいただきに私はここまで足を運んだのだ。

外観は王風野兎らしく、ゴロンとそれだけ。

そしてソースはぎっとり。

一口目を食べてみた。ん~。おいしい。

味は良い。

私にはちょっと薄い。

軽い?モダン?

最近のパリ料理の傾向だ。伝統料理が復活している。それも、おそらく「本もの」の伝統料理を食べたこともないような、若いシェフが作っている。

彼らは、昔風の、腐る寸前まで熟成させてジビエを知らない。

私でさえ、頻繁に食べたわけではない。

しかし、私はヌーベルキュイジーヌ以前のフランス料理を知っている。近所のビストロのコック・オー・ヴァンは小学生のとき好物だった。

当時三つ星の黄金時代だったトゥール・ダルジャンの鴨の血のソースを初めて食べたのが、いくつだったかな?7歳だったかな。

だから、私は昔の濃いフランス料理は知っている。

今の若いシェフたちが復活させる伝統料理は私には薄い。

新鮮な素材をバターなど脂肪分を軽めに、場合によっては柑橘の香りを嗅がせたりして、改善している。

それは、改善であることは、少なくとも頭では認める。

身体で覚えているフランス料理は、決して軽いものではないが、今の人-フランス人も日本人も-軽いものに慣れていて、それを求める。

つまり私の味覚は時代外れなのだ。

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ソースの色も濃度も申し分なし。

このリエーヴルを食べてそう思った。

嬉しいことにソースもたくさんいただいた。艶々しい色も美しく、スプーンから垂らしたときの濃度もバッチリ。

しかし、やはり私にはヴォリュームが足りなかった。インパクトが薄い。

好みの問題だ。完璧なソースだ。欠点のない、優等生のソース。

だから、もう少し反発しても良いのではないか。

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ココナッツムース、パイナップルソルベ、ルシーダタジェットのシロップ

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「タイノリ」チョコラ、ヌガティーヌ、紫蘇キルシュ。

シェフが一人すべてを作っているのだから、もちろんシェフ・パティシエはいない。

それでも、デザートはどちらもなかなかよく出来ていた。

最初のはさらっとフレッシュ。

ショコラのは濃厚だが重たくない。味のバランスも非常に良い、大人のデザート。

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暖炉がトイレ

いきなりトイレでごめんなさい。

昔からあるパリの暖炉にすっぽりトイレをはめ込んだ発想が面白かった。

 

*********結論**********

メニューは安い。上記のデギュスタションで70ユーロ。

素材もいいものを使っている。コストパフォーマンスは申し分なし。

素晴らしく繊細、そして優しい料理だ。

シェフは技術も創造力もある。

ピンピンに張っている糸のような神経。

ちょっとのんびりしてみれば?と言いたくなる。

あ、今、始めたばかり。

「のんびりしてられませんよ!」って、言われそう。

将来が楽しみ。いや、「将来」なんて遠いものじゃない。来春、来月、明日?

少しでいいから、余裕をもってのんびりした時がさらに楽しみ。

Auberge du 15
15 rue de la Santé
75013 Paris
Tel: +33 1 47 07 07 45