パリ、カルティエ・ラタン。英語でラテン・クオーターという。

伝説の学生街。世界最古のソルボンヌ大学(とフランス人は言う)から始まった学生街。近くにパリ医大など、数々の学校がある。

中世の学生は皆宗教人で、彼らの言語がラテン語だったことから「ラテンの界隈」と名付けられたが、今は特徴の薄い、単なるごみごみした観光街に過ぎない。

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「シェ・ハマディ」には、昔私がフランスの国学と言われる哲学を-デカルト、パスカル、サルトル、哲学者が多いフランスだ-学んだころの面影が残っていた。懐かしかったし、おいしかった。

日本だったら、学生街の居酒屋の雰囲気かな。うるさくて、大声を出さないと会話ができない。サービスは素早いおにいちゃん。

「シェ・ハマディ」はチュニジア料理の老舗だ。大昔からあるのではないか。入り口が狭い小さな店。

壁にはチュニジアの古ぼけたポスターはお土産っぽいお皿などが無造作にかかっている。

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オードブルは「サラド・メシュイヤ」(メシュイヤ・サラダ)にした。火でグリルしたピーマンやパプリカ、トマトをみじんにして、オリーブオイルをたっぷり。シーチキンと塩辛く苦みの強いオリーブは欠かせない。これをパンで上手にすくって食べるのがチュニジアのやり方だが、慣れない私はフォークとパンで。

チュニジアで食べたメシュイヤサラダはもっと香りと辛味があった。香りはやはり、太陽いっぱいのチュニジアの野菜に、寒いパリの素材が敵うわけがないのだが、南地中海は薄めのパリの味でもおいしかった。

 

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好きだわ、この古臭いお皿。

 

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メインはもちろん、クスクス。北アフリカマグレブ地帯の料理で有名なのが、モロッコのタジン。チュニジアのタジンは、卵のテリーヌみたいな、まったくモロッコとは違う料理で、私はあまり好きじゃない。ここのタジンは食べたことがないので、モロッコ風なのかチュニジア風なのか分からない。しかし、チュニジア人が、私が嫌いな卵系のタジンを作っても、チュニジア人がまったく異国のモロッコのタジンを作っても、どっちもどっち。

だから「ハマディ」ではクスクスに限る。そして「ハマディ」で絶対食べるべきなのが、メルゲーズ。

最近は、かすかすの、香料だけやたらと利いていながら脂が全然足りないメルゲーズをよく食べさせられる。高級料理がメルゲーズの「カッコいい版」を提供するようになってからなおさらだ。

でも「ハマディ」は違う。ほどよく脂を含む、噛むと「ジュゥ」と汁が出るメルゲーズだ。

クスクスの粒は小さく、軽い。さらさら~っと食べちゃいそうだ。

 

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スープというべきか、出汁というべきか。ブイヨンは水のように液状だ。これが「本もの」。ドロドロ、トロトロするクスクスのブイヨンは邪道。

アラブとか、北アフリカとか、マグレブ、というと、なんとなく濃い~ものを想像してしまう。肌の色がちょっとカフェオレのマグレバン(=マグレブ人)。イスラム教の濃い文化。砂漠とラクダ?そう、それも。

実は、チュニジアにしてもモロッコにしても、行ったことはないがおそらくアルジェリアもそうなのだろう。味は結構上品。素材がいいから、あまりくどく加工をせず、味付けも意外と微妙。スパイスはもちろんたくさん使うが、それでもインド料理のように鼻にプンプンくるほどではない。おいしいマグレブ料理は、味に品格も鮮度もある。

さて、クスクス。お玉に少しブイヨンを取り、ハリサを溶かし、自分のお皿にかける。

ハリサはおなじみのマグレブ地帯の唐辛子ペーストです。

フランス人はクスクスにレーズンやアーモンドを入れたがるが、実はこれも邪道。おいしいクスクスはブイヨンの野菜のうまみで十分なのだ。

 

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粒はあっという間にスープを吸い込む。

大きなスプーンでざっくり食べる。

おいしい!羊の脂が野菜のブイヨンにまろみを与える。甘みも増す。人参と鶯豆は固めに茹でて歯ごたえを。ズッキーニは柔らかめだけれど、溶けてはいない。

 

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「シェ・ハマディ」にはもちろん定番の羊のグリルや串焼きもある。鶏もあるし、魚もある。でも今日は、名物「オスバンヌ」を試してみた。

さて、さて。外観は奇妙だが、「オスバンヌ」とはなんだろう?羊のミノに羊の肉や内臓を包んだ「腸詰」だ。臭みを消す意味もあるのだろう、ミントやコリアンダーなどの香草を大量に、そしてホウレンソウも少々。餃子の具のように、すべてを細かく刻んで、調味料が沁み込むように手でよくならす。

ミノは球状に糸で締める。縫い目はかなり荒っぽい。

複雑な味。味というよりも香りを食べているのか?緑臭さと羊臭さ。癖がある。やみつきになりそうだ。香草と内臓、レバーの苦み?この食感は肺?いろんな味といろんな食感がコロコロ口の中を散歩する…。

一番効いているのはやはり香草だが、香草というより野菜かな?自分の味覚が理解できないまま、終わってしまう。

世界中の伝統料理にあるのだろうな、年月の蓄積で完成されたもの。狭い土地にある素材を利用し、人類が代々作り上げていった食べ物。え~?ここまでやる~?と驚くものも多々。伝統料理は素材をとことん活かす。無駄がない。

腸の腸詰「オスバンヌ」を噛みしめながら、考えちゃった。

 

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デザートは桃とマジパン。桃はもちろん缶詰だ。マジパンは近所のアラブ屋で売っていそうな代物。

「アラブ屋」はパリのコンビニみたいなもので、アラブ人が経営している小さなスーパーのこと。24時間営業ではないが、普通のフランスの商店と比べて営業時間が長く、なんでも売っているから便利。

パリのアラブ屋はみんなチュニジア人だと言われている。

このデザート、駄菓子的だけど、かなりおいしい。桃の酸味とマジパンの甘みと、独特な舌触りが抜群に合う。

「シェ・ハマディ」、また行きたい。

次回は「ドミ・テット・ドゥ・ムトン」を食べる。「羊の頭の半分」、さてさて、どんなものが出てくるかな。

Chez Hamadi le Boute Grill (シェ・ハマディ・ル・ブート・グリル)
12 rue Boutebrie
75005 Paris
Tel: +33 1 43 54 03 30