急に4日間ベルギーのレストランに行くことになった。一軒目は今日訪れた「イン・ドゥ・ウルフ」。

Carte belgique tour 3

パリから車で約3時間、北西に向かう。目的地はフランスとベルギーの国境ぎりぎりにあるDranouter(ドラヌートゥール)のレストラン「イン・ドゥ・ウルフ」。

地図のグレーの線が国境です。見にくくてごめんなさい。

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国境に着きました。青い看板の向こうはベルギー。

陸続きのヨーロッパは、昔はこういうところに、ちょこんと入国審査員がいて、パスポートチェックなどをした。ヨーロッパ統合以来、何もない。見えない線があり、消費税率が変わるだけ。「外国」へ渡った実感はいたって薄い。

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同じ小さな町が、フランスとベルギー両方に分かれているのだが、ベルギー側はやっぱりなんとなくフランスにない雰囲気。

あ、そうか。ワッフルの国なんだな。

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ベルギーに入ると速度制限も違う。市内は時速50キロ(フランスと同じ)市外は90キロ(フランスは70~90)高速は120キロ(フランスは130)。

右の黄色い看板に「Vlaanderen(フランデレン)」と書いてある。そしてベルギー王国の紋章。

ベルギーはオランダ語圏のフランデレン地域と、フランス語圏のワロン地域にほぼ二分される。長く続いた言語戦争の結果1993年の分かれた。まだ傷は浅い。ライバル意識や国民意識が強い。今のベルギーは一つの国というより、まったく違う「外国同士」みたいだ。

右下の看板にはこの国境小都市、ホイフランド地区、ウェスタウター市の名前が書いてある。

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ウェスタウタ―から数分いくとドラヌートゥールに入るらしいが、家が数件あるくらい。そしてレストランがある。かなり田舎だ。

このレストラン「イン・ドゥ・ウルフ」はOAD(Opinionated About Dining)レストランランキングで、2014年ヨーロッパ1に選ばれたのだ。

OADは近々、Best50を抜くのではないかと言われるくらい、上昇が早いネットランキング。現在、アメリカとヨーロッパだけ。

リンクは→ OAD 西欧風料理のレストラン(和訳が変だけど)

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感じの良い建物。モダンシックな農家みたい。

外観もダイニングの雰囲気も、木や土、ナチュール的な色。なんとなくフランスの「ラ・グルニュイエール」やデンマークの「ノーマ」を思い出す。「今」の趣向だ。

窓から厨房がちらちら見える。暖炉は火をつけたばかりなのか、煙がもんもん上がっているが、温かいムードにしてくれる。

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メニューはもちろん、均一。ワインとのペエリングと、ジュースのペアリングがある。北欧系のレストランで流行りの野菜とフルーツのジュース。私はコペンハーゲン「ノーマ」で初めて経験して好きじゃなかったが、お酒も飲めないので、こちらにしてみよう。

一品目がきた。豚の皮の軽い軽いおせんべいみたいなもの。ポテトチップスのバーベキュー味、そういう味。結構きつい。上に乗っかっているクレームはからからに乾いた豚の皮に脂身を加えて、ちょっときつめの味をまろやかにしてくれる。

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北海のつぶ貝の親戚と小さな蟹。蟹は汁を吸うだけ、と料理を持ってきた料理人さんがいう。

そう、ここも、料理を運んできて、説明をしてくれるのは、青いエプロンの料理人さんたち。みんなの共通言語は英語なので、オランダ訛りなのか、ほかの国の訛りなのか、あまりぱっとしない英語で説明してくれる。よく分からない。

汁だけ吸え、って言われてもね…ずーずー音立てるのも気が引けるし、蟹がかわいそうだから、殻ごと食べちゃった。

なるほど、貝も蟹もおいしい。味はたっぷりある。調理加減も抜群。一個ずつ・・・蟹は一人半個?空の殻と石ころが敷き詰めてあるから、水増し?食べるというより、むずむずと試食する感じだ。

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鯖のヨモギの燻製。一人フィレ一切れ(3人だった)

小さい切り身一切れでは鯖に申し訳なくて、私だけ骨も食べてみた。なかなかおいしい。フィレは脂がちょっとしつこかったので、私はこの骨の方が好きかも。

骨は飾で、食べるためではないらしいが…尻尾まで食べちゃった。パリパリと、ものすごく軽い旨みせんべいだ。

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卵の中にはロワイヤルのようなもの。茶わん蒸し?上にはラディッシュの小さな薄いスライス。おいしいけれど、かなりクラシックな味。特にどうということはない。

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ここでやっと、ジュースペアリングの最初のジュースが注がれる。なんだか忘れたが、「ハーブ」のジュース。

警戒していたほど、濃厚ではなく、「緑っぽい」味がそれほど気にならない。かなり水っぽいので、比較的飲みやすい。

野菜嫌いの私としては大喜びというわけでもないが、飲める。でも、野菜フルーツスムージーに凝っている健康趣向の友達だったら、手をたたいて喜びそう。

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パンはすばらしい。ミミがカリッと硬く、でも口の中を傷つけるほどではない(フランスパンってきわどいでしょう)ミミが極薄で、中身はしっとり。ナチュール的に若干粗目。そのバランスがとても良い。

味は見た目よりもずっとモダンだ。昔ながらの田舎パンみたいな外観と反してコンテンポラリーなパンの味。

付け合わせは豚の脂と塩入バター。私は豚の脂は好きじゃなかった。脂臭くて、味がないわりにしつこい。でもバターはおいしい。このパンとバターを一緒に食べると、最高!すっごく軽いから、パクパク全部食べちゃいそう。

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きれいなズッキーニ。

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中もきれいなズッキーニ。塩漬け洋ナシと。

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ジーランド圏グレヴリンゲン三角江のカキ。空のまま松の火に乗せた。松の香りが良い。

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殻を開けると、本当にナチュラルだ。そのまま。痩せ気味の、脂っ気が足りないカキだ。

愛国心じゃないけれど、私はヨードがはっきりしているフランスのカキ(ユータビーチ?)や日本の淡白だけど脂の濃い、調理した方がおいしいカキの方が好きだ。

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北海のイカ、ポップコーンとハーブ。

ハーブはおいしい。香りもあるし、味もある。青い味はさわやか。ポップコーンはなんだろう?丸みを与えているのかな?

でも、肝心なイカが旨くない。文字通り、旨みがないのだ。

デンマークとラトヴィアで思ったこと。水が冷たすぎると魚介もだめか?

それとも薄く切りすぎて味がないのかな?

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エイのコンディマンはちょっと酸味の利いた緑のもの。なんだか忘れちゃった。調味は完璧だが、全メニューで一番印象が薄かったかな。

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並行して、ジュースも続く。カリンとヴェルヴェーヌ(バーベナ、クマツヅラ)、ニンジンとパネ(パースニップ)、ジャガイモとトピナンブール(キクイモ)のジュースだった。

いい加減飽きてきた、ナチュール的なものばかり飲むの。やっぱりワインは偉大だわ~。痛感。

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「ムークラード」はフランス中央大西洋沿岸の伝統料理。ムール貝を縦にびっしり、火が通っても開かないようにするのだ。メチャクチャ小さいムール貝、これ3人前。

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一緒に出てきたのが、ムールのロワイヤルとムールのジュレ。特に食べ我意はなかったが、おいしい。

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インゲンのロースト、フレッシュナッツ、羊のチーズ。野菜嫌いの私でも関心する、これはおいしい。さわやかで新鮮で軽やかで。「緑」の利点をすべて詰め込んだ一品。

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キノコと生クルミ。この料理を運んできた料理人さんによると、なんとかいう(名前を忘れた)珍しいキノコをキノコ屋さんに栽培してもらっているらしい。

なかなかおいしい。バターかな、甘みと丸みを与える脂肪分がちょうどよく香りづけて、クルミの食感とキノコの食感と、両方の野生な旨みが微妙に合う。

技術も抜群、品もある。

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新しいパンがきた。丸ごと穀物入りのパンだ。それを厚めにスライスして火でトーストしている。香りが良いこと!

昔、おばあちゃんが火鉢で焼いてくれた自家製のお餅を思い出した。お餅が膨らみ、部分的に黒く焦げる。あの香り。私のプルーストのマドレーヌ…。

懐かしい。このパンもおばあちゃんのお餅も、同じ穀物を焦がした匂いだ。人間は万国同じ経験をして楽しんでいるのだな。

パンというより、膨らんでいないお餅の、ずっしりした重み。目が粗く、しっかり詰まっている。穀物のおいしさを改めて発見。

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いろんな風に調理したカリフラワー。ソースは乳清とムール貝。おいしいけれど、スリルがない?頭で楽しむ感じ。

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ステーンフォルドの鳩のお出まし。周囲の雑音もあり、説明がややこしくよく分からなかった。聞き取れたことは「鳩を箱に閉じ込めて、毎日確認します」(飛んでっていないか確かめる?)「毎日、毎日、確認するので、衛星上問題はまったくありません。だから、ほとんど生な状態で食べられるます」

閉じ込める前に干し草で燻製にするのか、閉じ込めた後にするのか、よく分からなかった。

熟成させたことがだけ分かった。6週間。

さあ、食べよう。と思ったら、厨房に戻って行っちゃった。

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その間、ジュースメニューは続いていた。赤ビーツとエルダーベリー(ニワトコ)。赤ビーツが嫌いな私にはかなり厳しい。独特なねっとりした甘みはエルダーベリーの野生な酸味でバランスが取れているが、それでも甘ったるい味。おお、苦手だ。

でも、夫はおいしい、って言ったので、好きな人は好きなのだろう。

私はお茶が欲しかった。

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鳩の代わりに「ルージュ・フラマンド(赤フラマン)」牛。それと小葱。ネギはかなりおいしい。フレッシュで旨みもある。

牛はまずかった。キュイソン(火入れ)は完璧だが、肉そのものの旨みがない。最近パリではスペイン・ガリツィア産、熟成6か月の牛肉や、日本やオーストラリアの和牛が出回っている。フランスのリムザンやシャロレ牛もこれよりはおいしい。

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なんだ??ううう、頭蓋骨を食卓に置くのは賛成できないんだけど…。斬新だから良いってものじゃないと思うんだけど。歯はぐらぐら動いて、落ちそうだし、これ、どうやって洗うわけ???

ヤダヤダ、食べたくない。おでこに乗っかっているのが、何かのタルトレット。技術的に出来はよかったけれど、まったく何も印象に残っていない。「食器」の印象が強すぎたのかな?

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葉っぱに綴んで食べる鳩のレバー。どうでも良くなってきた…。

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「鳩のメインの部分です」と言われて、「なぬ~~?」と反発したくなった。これを3人で指でつまんで食べろ、と。鳩の足の二本目は何処?

ほかの二人(夫と友人)がお行儀良いから、鳩の足は私がもらった。でも、所詮鳩の足。特に食べ我意はない。

切り身なっているフィレは…なるほど、こちらは面白い。

日本で、高級鮨屋や料理屋が、魚を数十分、数時間、種類によっては数日寝かす。寝かして、旨みを「作る」。生魚は調理をしないだけに、身の熟成を計算しコントロールすることによって、味を「加える」。この日本の魚料理の高度な技術を西欧料理で見たのはこれが初めてかも。

確かに、牛肉も寝かす。昔はジビエを寝かした。しかし、これら肉類は生で食べることが目的でない。旨みを足すことよりも、柔らかくすることが第一目的だった。旨みが増すのは、知らない間に生じていた因果関係。

西欧料理は肉を寝かせて柔らかくしてから、煮込んで味を沁み込ませるのが基本だ。肉そのものの味よりも、調理で加える味が強かったし、重視された。

しかし、この鳩はほとんど味がついていない。熟成した鳩の肉そのものの味で勝負している。口にまとわりつく、幕を張る旨み。スペインのパータ・ネグラ、ベジョータのイベリコハム。あの、臭いような、旨いような、独特なおいしさと、ねとっとした食感を思い出した。好き嫌いはあると思う。癖の強いものが嫌いな人は避けた方がいいかもしれない。

「素材」が大流行りで耳にタコができるほど聞き飽きた今日。これは本当に素材本来の性質を生かしている。脱帽。

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最後のジュースはリンゴとリュバーブ。あっさり甘い。私はお茶が欲しい。

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北フランスのチーズ、マロワールのフラミーシュ。フラミーシュは、イタリアのピザ、アルザス地方のフラムキューシュと同じタイプの料理だ。生地に何かを乗せて焼く。普通においしいけれど、なんと小さい。

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最初のデザートはブラックベリーのジュレとその下に何かあった。眠くて、眠くて…

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ん?次のデザートは傑作だ!一気に目が覚めた。

野生のカモミールとキュウリらしい。中に、カモミールのアイスとクレームかな。さっぱりしているが、濃度もある。外側は、若いキュウリの薄いスライス、甘酢漬け。日本の酢の物に出てくるキュウリを思い出す、淡い甘みだ。西欧の普通のスイーツよりも、塩を感じる。その点も和に近い。

私が日本人だからか、本当においしいからかは分からない。しかし、このデザートはすばらしい。

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最後はリンゴの中にグラニテ。

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ミニャルディースはパート・ド・フルイ、チョコレートとチーズケーキ。

結論:最初、このレストランを出たときは、二度とくるか、と思った。

ちょこちょこと、延々と続くメニューで、いつまで経っても食べた気がしないのは嫌いだ。

北欧料理で流行った(原点はスペインのエル・ブジだと思うが)摘みの連続。加えて「素材は神様」時代の極端にナチュラルな素材の活かし方。「極端」に、は違う。ナチュールのカッコウをしているわりに、と言った方が正しいかもしれない。

私は、多くのフランス人と同じで、食卓は快楽の場であり、頭を痛める場所ではないと信じている。だから、北欧系料理は、圧倒的に英米人(味覚音痴で食べるより考えるタイプ)が支持する。フランス人はあまり好まない。

おまけに甘いような酸っぱいようなすべて青臭いジュースの連続、やっぱり私は苦手。

しかし。

翌日思い出して、考えてしまった。シェフ、コーベ・デスマローツの料理は確かに頭を使うが、それが悪いか?

まず、技術は完璧だ。料理は、技術だけではできないが、技術がなくてはできない。この人に、難しいフランスのパテ(生地に包んで焼いたもの)を作らせたら、できるとは限らない。

でも、適切な言葉が出てこないが…「科学的分析技術」のようなものは持ち合わせているのではないか。

料理は化学だから、当然と言えば、当然だが、フランス料理の思想の正反対の、人間が触った気配をなるべく薄く保つ料理。日本料理と共通するのではないか?

「よく食ったなぁ~」とお腹をたたきながら出てくるレストランではない。満足感溢れる楽しい食事だったとは言い難い。

しかし、もう一度行ってみたい。

それに、ここの3品を一つの皿に乗せれば、結局普通の一品くらいになるんじゃない?つまり、普通の一品を3回に分けて出していると考えれば、普通の5品メニューと同じではないか。

 

メニュー:160ユーロ

+ワインぺらイング:240ユーロ

+ジュースペアリング:210ユーロ

In De Wulf
Dranouter, Heuvelland
Belgïe
Tel +32 57 44 55 67