日本で二週間。朝昼晩-おやつまで-外食の連続だった。それも、朝はパン一切れというわけにもいかず、つまりは食い倒れ。

パリに帰って当分レストランには行きたくない、と思っていたところへ、いきなり飛び込んできたのがブノワの夕食。

昨夜、友人とエスカルゴの話をして、無性に食べたくなったのがきっかけだった。エスカルゴだけ軽くつまんで帰ろうと、いつもながらの誤算だった。

benoit-1140267

ブノワで嬉しいのは、最近の料理の、やたらデリケートで凝った盛り付けもなければ、腹八分目の危険もないことだ。つまり、たっぷりと、率直に、伝統フランス料理を出してくれる。

だからといって、決してダサくもなく、古くもない。永遠のものはやはりうまい。日本だったら『鮨 水谷』?

そこまで高級ではないかもしれないが、そんじょそこらの懐石料理をはるかに超える満足度だ。

アミューズというより、昔風に「アペリティフ」といいたい「おつまみ」は、懐かしいグージェールから始まる。グージェールは、おなじみのシュークリームからシューを省き、チーズ風味に、塩っぱくしたような、ブルゴーニュ地方の名物だ。チーズベースの「塩菓子」は丸ごと口に入れるには大きすぎる。カンピョウ巻と同じかな。噛り付いたときの食感も味わうようにできている。カリカリ、サクサクの軽薄な世界ではない。じっとり歯が沈む湿度と嬉しい厚みがおいしい。

benoit-1140269

「おつまみ」の中で、残念、私が一番好きな「パテ・アン・クルート」(パイ包みのパテ)の写真を撮り忘れてしまった。代わりに、もう一つの前菜はこちら、なかなかの出来のフロマージュ・ド・テット。直訳『頭のチーズ』と変な名のこの冷菜は、近所の肉屋でも売っているフランスの定番だ。ブノワのは丁寧に、香草を利かせて作られている。欠かせない付け合せがコルニション。甘みがゼロで、酸味だけのフランス風のピクルスだ。

benoit-1140271

連れが注文したグラスワインを注ぐソムリエ。ムルソーのジェロボアム(3リットルの大瓶)はカッコいい。

benoit-1140274
さてさて、昨晩から食べたかったエスカルゴ。メニューに9個と書いてあったが、遠慮がちに6個にしてもらった。

あーあ。やっぱり9個にするんだった。エスカルゴは小さめで、若干パンチが足りなかった。エスカルゴの季節っていつ?

この小ぶりなら9個、いや12個でも食べれらそうだ。

benoit-1140279

今日のスペシャルは、今年初のグリーン・アスパラ。

旬のものにあまり心を動かされない私としては、「アスパラ」といわれても、「ふん、野菜か」と思う程度だが、今回は食べてみたくなった。直感?予感?潜在意識の、鋭い嗅覚が、ウマいものを嗅ぎつけたのか?

傑作!大作!旨い!抜群!現代料理のガシガシのアスパラではない。しかし、ふにゃふにゃの煮ぐあいのアスパラでもない。フランス料理の野菜は本来、しっかり煮るものだ。繊維の強い野菜、そして煮ると甘みが出る野菜が多いからだ。今日のアスパラ、ナイフがすっと入る程度だが、ちゃんと素材の味と食感を発揮する。噛みしめるとジュっと汁が出る。自然の淡い甘みはフランスの風土。アスパラの香り、食感、味、旨み。なぜフランスは、旬のアスパラを謳うのか。フレンチ・アスパラのすべてを知り尽くしていなかったら、できないだろう、こういうアスパラは。

トリュフ入りムスリーヌ・ソースは穏やかに、甘く酸っぱく濃厚。この土地の強い野菜には、濃厚なソースが絶対だ。フランス料理の巨匠エスコフィエの顔が浮かんでくる・・・フランス料理はこうこなくっちゃ!

一人前6本のアスパラを、二人で分けたことをいまさら後悔する。やっぱり、6本、一人で食べるんだった!

ああ、しかし、パリはいいなぁ・・。

benoit-1140285

いつも迷うのがテット・ド・ヴォ(仔牛の頭)とこれ、「リ・ド・ヴォー、雄鶏のとさか、エクルヴィス(ザリガニ?)、フォア・グラ」。どちらも、フランス伝統料理。どちらも、ここ、ブノワでしか食べない大好物。

次回は必ずテット・ド・ヴォーを。今日はおとなしく、少数エスカルゴ、アスパラ皿半分に続き、「リ・ド・ヴォー」も二人で分けましょう。

(続)