ものすごく美味しいブン・ボー・フエに出会った。

ベトナム麺と言えばもちろんフォーだが、私は最近ブン・ボー・フエにはまっている。

「ブン」とは、米粉の細い麺。同じで「ブン」でも、ブン・ボー・フエの「ブン」はちょっと太め。細いスパゲティくらいの直系の麺。うどん(真っ白くつるつるしているから)とそうめん(細いから)とスパゲティ(丸いから)を合わせたようなもの。

「ボー」は牛肉。そして「フエ」はベトナム古都のフエ。「ブン・ボー・フェ」は「フエの牛肉スープのビーフン」というわけだ。

(「フォー」は平たい、きしめんのような米粉の麺。本来、「フォー・ボー」が牛肉スープ、「フォー・ガー」が鶏スープ。一般的に「フォー」と省略するときは、「フォー・ボー」を指す)

私は数回ベトナムに行っているが、残念ながら「フン・ボー・フエ」を食べたことがない。フエ市には行ったが、あまり旨くない「宮廷料理」のレストランに行っただけ。

幸い、フランスは、元植民地インドシナ領土の一部ベトナムとは歴史上関係が濃く、ベトナム人の移民も多く、ベトナム食品が充実している。だから、かなり現地に近いベトナム料理が食べられる。唯一不満なのは香草だ。もちろん、香草はベトナム料理のキーポイントだから、香草の香りが物足りないとなると、それでも「充実したベトナム食」なの?と言われそうだが、多少香りが薄っぺらくてもフランスのベトナム料理はそれなりのレベルに至っていると思う。

Ngoc Xuyen Saigon ニョック・スゥイイン・サイゴン(と、発音するのかな?)は、グルメ友のパトリックが、以前から大推薦のベトナム食堂。営業時間は午前9時半から午後5時までで、現地の食堂並み。まさかフランス人が朝から麺を食べるわけもなく、事実上ランチタイムの営業だけで成り立つ珍しい店。ゆっくりみんなでディナー楽しもう、という場所ではない。

 

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ボー・ビアは2本で4€。目に見える鮮度。ベトナム風ソーセージと湯がいた大根。

 

私が行ったときは、フランス人客一人(パトリック)、日本人客一人(私)。他はみんな明らかにベトナム人。それも、見るからに、おしゃべりや、会合をしに来たのではなく、ただ単に美味い麺を食べに来た、正真正銘現地人のB級グルメ属。

ベトナム人がだらけの小さな店は、大きなスープの鍋から上がる蒸気で壁が湿っている。アジア人なら見慣れた光景だが、次から次へ、どんぶりが運びだされ、ズルズル、ズ!と無口せっかちに食べるお客を眺めていると、妙に異国にいる感じがする。ハノイかホーチミンの小食堂に来たような、ちょっとバカンス気分になる。

木曜日はスペシャル蟹スープ麺の日。金、土はスペシャルごった煮麺スープの日。金、土の「ごった煮」(と私が勝手に名付けた)は、「海鮮発酵魚のスープ」で、他にはない、素晴らしいものらしい。

残念ながら本日は、火曜日だったので、普通にメニューに載っている「フォー・ダック・ビエット」と「ブン・ボー・フェ」しかなかった。

私はもちろん、パトリックお薦めのブン・ボー・フエを注文した。

 

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ブン・ボー・フエ 9€30。ハーブ各種、バナナの花、ソースの写真を撮り忘れたが、もちろんずらっと一緒に運ばれてくる。

 

どんぶりが運ばれてきたときは少々がっかりした。私が想像するブン・ボー・フエはもっと毒々しく赤く、こんなにさらっとしか外観ではない。フォーとどう違うんだろう、と思いながら、スープを一口。

ウマイ!!!

さらっと上品なブイヨンは、塩分は程よく効いていて、旨みはたっぱり。化学調味料を入れ過ぎた下卑たしつこさもない。

すいすいとどんぶり一杯を飲んでしまうようなスープだ。

これは美味。

一口目で真っ先に頭に浮かんだのは、2011年にパリの三つ星店「アストランス」のシェフ、パスカル・バルボが作った、ダシ。京都で教わった出汁のテクニックをベースに、昆布と鰹節をふんだんに使って自分流に工夫した超美味な「ダシ」だった。その出汁は、日本の下手お料理屋さんよりも、色が澄んでいる、なんて可愛いものじゃない。「味」そのものが鮮明なのだ。身体を貫かれるように透き通った液体だった。

お世辞じゃないのよ。私は、ニョック・スゥイイン・サイゴンの「ブン・ボー・フエ」に同じ味の透明感を見出した。

最近、パリで、日本のラーメンが大流行。それも「トンコツ」ばかり。やたらと煮詰めた豚骨スープを脂まみれの汚いどんぶりで出してくるのがあるスタイルになっているらしい。下卑たを通り漉して、脳をぶち抜くような味の濃さ。塩と脂が多ければ旨く、マンガの影響でラーメンに憧れた若いフランス人が行列を作る。しかし、私は、味は濃いばかりで満足度が低く、量も少ないから不満だ。お値段ばかり立派で15ユーロ(今日の為替で1800円)前後、店によっては17~20ユーロもする代物だ。

その貧弱なラーメンの1.5倍の量を軽く超える、味も香りも素晴らしいどんぶりを、ニョック・スゥイイン・サイゴンは1200円で提供する。

ブン・ボー・フエのスープは牛と豚の筋と骨から取る。調味は砂糖、塩、ニュオク・マム、玉ねぎ、レモングラスと、秘訣はフエのマム・ルオック、ベトナム中部の発酵オキアミペースト。タイにも似たような調味料がある。

トッピングの肉はスープを取るために煮込んだ肉類と、肉団子、ベトナムハム、そして特に私が好きなのが、とろとろになった豚足。フランス人のお客は嫌いな人が多く、注意しないとこの豚足が一個だけだったり、まったくなかったりで、かなり寂しくなってしまう。ちゃんと「豚足2個」、と注文の時に念を押した方が良い。

 

サイゴン・モイのブン・ボー・フエ。ハーブ類とバナナの花を足した後の写真。

サイゴン・モイのブン・ボー・フエ。ハーブ類とバナナの花を足した後の写真。

 

もう一軒、ブン・ボー・フエが美味しい店がある。同じ13区のSaigon Moi サイゴン・モイだ。比べると、私はニョッック・スゥイイン・サイゴンの方がスープが「澄んでいて」美味しいと思う。そして肝心の豚足が、サイゴン・モイでは若干固く、箸で食べられる程どとろとろに煮込んではいない。指で拾い出して齧る、歯ごたえがある。店の名前から分かるが、経営者もお客も南ベトナム人の移民。だからか、スープは美味だが甘め。しかし、夜も営業しているし、麺意外にもエビとサツマイモの「かき揚げ」や、デザートも一通りあり、こちらの方がレストランらしく、家族や友人と行きやすい。予約もできる。

 

Ngoc Xuyen Saigon
4 rue Caillaux
75013 Paris
電話 +33 1 44 24 14 31

Saigon Moi
82 rue Baudricourt
7503 Paris
電話 +33 1 44 06 43 04